
戸車は、引き戸の重さを支えながらレールの上をスムーズに動かすための、小さな車輪のような部品です。
普段は目に付きにくいパーツですが、引き戸の快適性を左右する重要な役割を担っています。
この記事では、そんな「戸車」の基本知識から、交換を考える前に確認すべき重要ポイント、そして自分で交換するリスクや専門業者に依頼する際の費用相場まで、分かりやすく解説します。
戸車とは?

戸車とは、その名の通り「戸」についている「車輪」のことで、引き戸やサッシの枠の下部または上部に埋め込まれています。数十キロにもなる引き戸の重さを一身に支え、レールの上を転がることで、私たちは軽い力で引き戸を開け閉めすることができます。
戸車のタイプ
戸車には、その取り付け位置によって大きく2つのタイプに分けられます。ご自宅の引き戸がどちらのタイプかを知ることが、メンテナンスや交換の第一歩です。見分け方は簡単で、床にレールがあるかどうかで判断できます。
タイプ | 下荷重(したかじゅう)タイプ | 上吊り(うわづり)タイプ |
特徴 | 床に設置されたレールに戸車のせた、一般的なタイプです。 | 天井や鴨居に設置されたレールから戸車で戸を吊り下げるタイプです。 |
見分け方 | 引き戸の下の床にレールがあります。 | 床にレールがなく、スッキリしています。ドアの上部にレールがあります。 |
メリット | ・構造が比較的シンプルです。 ・多くの住宅で採用されています。 | ・床に段差ができず、バリアフリーに対応しやすいです。 ・ホコリが溜まりにくく、開閉が静かでスムーズです。 |
デメリット | ・床のレールにホコリやゴミが溜まりやすいです。 ・レールの摩耗や歪みの影響を受けやすいです。 | ・施工や調整が複雑です。 ・壁や天井に十分な強度が必要です。 |
戸車の寿命サイン
以下のような症状が見られたら、戸車が経年劣化や破損を起こしている可能性があります。戸車は消耗品であり、長年使用していると必ず劣化します。一つでも当てはまる場合は、戸車の状態を確認することをおすすめします。
まず、開閉が以前より重い、または固く感じる場合は、戸車の車輪が摩耗したり、軸が錆びついたりして回転が鈍くなっている可能性があります。
次に、「ガラガラ」「キーキー」といった異音がする場合も注意が必要です。これは車輪の破損や変形、あるいは内部のベアリングが劣化しているサインかもしれません。
最後に、引き戸が傾いていたり、レールから外れやすかったりする場合も危険な兆候です。戸車がすり減って高さが変わったり、破損して戸を正常に支えられなくなったりすると考えられます。
戸車交換する際に確認すべきこと
「戸車を交換しよう」と考えたとき、安易にホームセンターで似たような部品を買ってくるのは危険です。交換で失敗しないために、以下の3つのポイントを必ず事前に確認してください。ここを怠ると、時間もお金も無駄にしてしまう可能性があります。
Point1:戸車のタイプは「下荷重」か「上吊り」か
まず、ご自宅の引き戸が「下荷重タイプ」か「上吊りタイプ」かを確認しましょう。床にレールがあれば「下荷重タイプ」、なければ「上吊りタイプ」です。このタイプによって、戸車の種類も交換の難易度も全く異なるため、最初の重要な確認項目です。
Point2:メーカー独自の規格に注意!メーカー名と品番の確認が必須
これが最も重要なポイントです。現在、戸車には業界で統一された規格というものがほとんどなく、引き戸を製造しているメーカーがそれぞれ独自の規格・形状で製品を作っています。
そのため、交換する際は原則として「現在ついているものと全く同じ製品」または「メーカーが公式に後継品として指定している製品」でなければ、取り付けることができません。
メーカー名と品番を特定するには、まず可能であれば引き戸を外し、戸車本体を確認します。側面にメーカー名や英数字の品番が刻印されていることが多いです。それが難しい場合は、引き戸の側面(戸先や戸尻)に、メーカー名や製品情報が書かれたシールが貼られていないか確認してみてください。
Point3:戸車の形状とサイズを正確に測る
同じ製品が見つからず、どうしても代替品を探す場合や、業者に問い合わせて相談する際には、戸車の正確な形状とサイズの情報が必要になります。レールの形に合わせ、V型、Y型、平型、丸型といった形状がありますので、まずは形状を確認します。
次に、ノギスなどを使って、車輪の直径、戸車全体の幅・高さ・長さをミリ単位で正確に測定します。ただし、前述の通りメーカー独自の規格が多いため、形状とサイズが似ていても取り付け部分の仕様が微妙に異なり、交換できないケースがあります。サイズ測定は、あくまで専門家に相談するための情報収集と捉えましょう。
自分で戸車を交換する際の判断と手順

必要な確認作業を終え、自分で交換に挑戦してみたいと考える方もいるでしょう。ここでは自分で交換する際の判断基準と、手順について解説しますが、少しでも不安を感じたら無理をしないことが肝心です。
交換できるかの判断基準
自分で戸車交換を実施する際は、以下の条件がクリアできた場合にのみ検討しましょう。それは、「全く同じ製品」または「メーカー指定の後継品」が確実に入手できたことです。加えて、交換する構造が比較的シンプルな「下荷重タイプ」であることも判断基準になります。これらに当てはまらない場合は、失敗のリスクや危険が伴うため、無理せず専門業者に依頼してください。
準備するものリスト
戸車交換を自分で行う場合、事前にいくつかの道具を準備しておく必要があります。最低限、新しい戸車(品番が一致するもの)、プラスドライバーとマイナスドライバーは必須です。また、引き戸を持ち上げる際に便利なバールや持ち手ジャッキ、そして掃除機やブラシ、雑巾といった掃除用具も揃えておくと作業がスムーズに進みます。安全のために作業用手袋も忘れないようにしましょう。
交換手順(下荷重タイプの場合)
まずは、引き戸を外します。引き戸を少し持ち上げながら手前に引くと外れるタイプが一般的ですが、重量があるため、必ず二人以上で安全に作業してください。
次に古い戸車を取り外す作業です。引き戸を横にして、戸車の取り付けネジをドライバーで外します。固着している場合は、ネジ穴を潰さないように注意深く作業を進めます。
その後、新しい戸車を取り付けます。戸車が取り付けられていた溝のホコリを綺麗に掃除してから、新しい戸車をはめ込み、ネジでしっかりと固定します。
最後に、引き戸をレールに戻し、建付けを調整します。スムーズに動くか、枠との間に隙間がないかを確認してください。多くの戸車には高さ調整ネジがついているため、ドライバーで回して戸の傾きや高さを微調整します。
上吊りタイプの交換は専門業者への相談がおすすめ
上吊りタイプの引き戸は、ドア本体が重い上に、戸車の構造や調整方法が複雑です。作業中にドアが落下する危険性が高く、事故につながる恐れがあります。お客様自身の安全のため、上吊りタイプの戸車交換は必ず専門の業者に依頼してください。
戸車のメンテナンスやってはいけないこと
「動きが悪いなら油をさせばいい」という安易な理由で潤滑剤の使用することは避けてください。多くの戸車には、ジュラコン®(POM/ポリアセタール)という自己潤滑性に優れた樹脂素材が使われています。
この樹脂製の戸車に市販の潤滑油やスプレーを塗布すると、油の成分が樹脂に侵食し、ひび割れ(クラック)や破損を引き起こす可能性があります。一時的に動きが軽くなったように感じても、内部で劣化が進行し、結果的に戸車の寿命を縮めてしまうのです。
メーカーが専用品を指定している場合を除き、自己判断で潤滑剤を使用するのはやめましょう。
自分で交換が難しいと感じたら専門業者に依頼する
「品番が分からない」「上吊りタイプだった」「自分でやるのは不安」と感じたら、迷わず専門業者に相談しましょう。プロに任せることで、安全かつ確実に問題を解決できます。
戸車交換にかかる費用の内訳
業者に依頼する場合の費用は、主に「部品代」「作業費」「出張費」の合計で決まります。部品代は交換する戸車本体の価格、作業費は交換作業にかかる技術料、そして出張費は業者が現場まで来るための費用です。
一般的な引き戸の戸車交換であれば、総額で1万円から3万円程度が相場ですが、戸の種類や作業の難易度によって変動するため、事前に見積もりを取りましょう。
信頼できる業者の選び方
安心して任せられる業者を選ぶためには、いくつかのポイントがあります。まず、複数の業者から見積もりを取る「相見積もり」が重要です。これにより、料金やサービス内容を比較検討し、適正価格を知ることができます。
また、提示された見積書の内訳が明確かを確認してください。「工事一式」などと曖昧に記載せず、「部品代」「作業費」などがきちんと分けられている業者は信頼性が高いと言えます。企業のウェブサイトで施工事例を見たり、第三者の口コミサイトを参考にしたりするのも有効な手段です。
まとめ
この記事では、「戸車」の基本知識から、自分で交換するリスクや専門業者に依頼する際の費用相場まで幅広く紹介しました。
交換が必要な場合でも焦らず、まずは戸車の「メーカー名と品番」を確認し、同じ製品か後継品を探すことが重要です。 また自身での安易な修理は失敗のリスクがあるため、品番が不明な場合や上吊りタイプは、無理せず専門業者に相談するのが最も安全で確実な解決策と言えるでしょう。