今までになかった「B to C」への挑戦。
初めて意識する一般ユーザーの声をヒントに、社長の野望と社員の思いの二人三脚で、初めての課題を
一つひとつ乗り越えながら、従来品にはなかった人目を引くカラフルな商品群が開発されました。

project member
  • 代表取締役

    中尾 浩之

  • 名古屋営業所 所長

    大塚 則彦

  • 開発部 主任

    西井 美奈

section 01

ネットで見つけた
一般ユーザーの意見から始まった

  • 中尾

    当社の商品をAmazonで扱う販売店があり、その中でドアストッパーのカスタマーレビューを見たんです。50件ほどの意見が寄せられており、高評価が多く見られました。「こんな便利な道具があったのか」とか、「一つ買ったけど、良かったので家の扉全部につけました」という書き込みを見つけた時は嬉しかったですね。その反面、とても気になる意見もありました。それが「取り付けにくい」というものです。

  • 大塚

    私もレビューを見ましたが、「取り付けにくい」という意見は目立ちました。星5と全体的には高評価なのに「取り付けにくい」と指摘している人もいるくらいです。

  • 中尾

    当社はB to Bのビジネスが基本です。多くがOEMの製品づくりで、いくつかあるオリジナルも一般販売のB to Cではなく、B to Bの取り引きでした。生産企業として一般の人と関わる機会がなく、この時に初めて一般の人の意見に触れたんです。

  • 西井

    当社のつくる製品は、ドアや扉の動きをサポートするものです。だから、基本的に主張してはいけません。「この蝶番良いな」という人なんて少ないですし、ドアを開閉させる部品を蝶番と呼ぶことを知らない人も多いですからね。

  • 中尾

    カスタマーレビューに寄せられた一般の人の意見を通して、当社商品に対する反応を見ていると「もっと簡単に取り付けられる商品を開発したらB to Cでも売れるのではないか」と感じました。当時はコロナ過の影響から、「DIY女子」というワードも耳にするようになった頃。女性目線の商品開発で、店頭やネットで普通に販売できるB to C商品をつくりたいと思ったんです。それで、大塚さんと西井さんに自分の考えを伝えて、新製品プロジェクトの開発をスタートさせました。

section 02

カラフルで目立つ
今までにない商品開発

  • 中尾

    今回つくった「パレット」という商品は12色のカラフルなカラーバリエーションがある点と、カバーを取り換えられる点が大きな特徴です。まず色味に関しては、カラフルな色は今までを考えるとかなりのチャレンジです。でも近年は、ヨーロッパの高級ブランドがハイセンスで目立つドアレバーを出しているので、ドアストッパーだって主張しても面白いじゃないかというのが発想の原点です。

  • 西井

    カバーの取り換えは過去に企画会議で提案したことがあるんです。ドア側と床側の色が違っていても良いよねと。例えば、白色に水色を組み合わせたら可愛いですし、アレンジをすることでユーザーが自分だけのオリジナル感を持ってくれると思ったんです。

  • 大塚

    実際に、床と扉の色は同じじゃないケースがほとんどです。だから、西井さんがいうように床と扉に合わせたコーディネートもありだと思いましたね。

  • 中尾

    実際に使っているうちに床側が汚れることもあるでしょう。カバーを取り換えるだけで新品同様の綺麗な見た目にもなります。カバーの交換の時に色も変えることで、部屋の印象が少し変わり、面白いと思ったんです。

  • 西井

    生産管理の面では、色がたくさんあると現場は大変かなという懸念もあります。しかし、工場のパートさんにパレットの組み立て作業をしてもらった時、「見ていて楽しいから作業も楽しい」と言ってもらいました。色がかわいいから自分でも欲しいと思ったそうです。スタッフにも喜んでもらえたのは、嬉しかったし心強かったですね。

section 03

「取り付け簡単!」を実現する試行錯誤

  • 大塚

    ドアストッパーの取り付けで難しいのは、ドア側と床側の2カ所の位置出しです。これがぴったりと合わないと上手く機能しません。慣れている職人ならいざ知らず、素人は手こずります。この開発プロジェクトを機に、改めて自分でも取り付けてみたんですが、「これは難しいぞ」と実感しました。

  • 西井

    課題をどのように解決するか大塚さんと相談している時、過去にあるお客様から依頼されて取り付けを補助する治具を試作したことがあるのを知りました。それで、そのデータを引っ張り出して紙で試作し、それをベースに改良を加えていくことになりました。

  • 大塚

    治具という言葉は建築業界の人はみんな知っています。ですが、このプロジェクトに関わってくれた印刷会社の人に、「治具って何ですか?」と言われて驚いたんです。「そうか、もっと目線を変えなければいけない」と改めて思い直したのを覚えています。だから、治具という呼び名もサポーターに変更しました。

  • 西井

    治具の再設計でも、テーマは目線の変更だったと感じます。専門業者ではなく一般の方が使いやすいよう、開いた状態のドアに治具を置くだけで、位置合わせが簡単にできるように工夫を重ねました。他にも、ドアストッパーのドア側の部品は裏面にテープを設けて、仮止めができるように。これで手を離した状態でもドライバーでビス止めできるようにしています。また、ビスに関しても従来品とは違うものを選定しました。

  • 大塚

    従来品はインパクトドライバーの使用を想定してビスも選んでいます。しかし、一般の方のDIYでは、インパクトドライバーを持っていないケースも多々あるはず。それで、ドライバー1本で女性でも簡単にビス止めできるように変更したんですよ。

  • 西井

    一方の床側は強力なテープだけでも固定できるようにしました。床へのビス打ちこそ、インパクトドライバーがないと難しい作業です。ビス止めもできる設計にしていますがあくまで補助の役割で、テープ止めをメインにしています。テープでの固定は過去に例がなかったので、何度も試験をして調整しました。

section 04

BtoCで重要になる
取説とパッケージデザイン

  • 中尾

    開発で一番大変だったのは、B to Bではあまり意識しない取扱説明書とパッケージデザインの制作でしたね。

  • 大塚

    本当にそうです。普段の取扱説明書は分かる人に向けた内容構成です。しかし、今回は「分からない人が簡単にできるようにする」というミッションが課せられます。どうすれば一般の人に伝わるかを念頭に西井さんには何度も調整してもらいました。

  • 西井

    取説にある絵は3D図面から起こしています。どの角度にすれば分かりやすいか、絵の数を少なく簡潔に説明できるかを考え抜きました。できたものを周囲や上司に確認してもらい、意見を基に改良を加える作業を何度も繰り返しましたね。また、パッケージデザインもB to Cならではで、初めての挑戦だったので難しかったですね。

  • 大塚

    パッケージの表面に何を掲載したら良いか。どうしたら商品が伝わるか。文字は何色が視認しやすいのかなどを、何度も検証しましたね。

  • 中尾

    取説やパッケージに関しては、一般の方の目に触れ、手に取ってもらうことで、さまざまな反応が出るのではないかと想像しています。ユーザーの評価を受け止めて、変える部分は変えて、さらに進化していくことが必要でしょう。中尾製作所として学ぶべきものであり、取り入れなければならないものだと考えています。

section 05

モノづくりと会社を
もっと面白く

  • 中尾

    「パレット」の開発は簡単に言うと、B to Bの商品をB to Cにどうアレンジするかがポイントでした。商品のクオリティはそのままで、見せ方や取り付け方、説明の仕方を自社で考えるプロジェクトでした。いつもは考えなくて済む取説やパッケージを、自分達でやりきった経験は今後の中尾製作所にとって貴重な財産となるでしょう。そもそも、この商品開発は売るという大前提の一方で、話題作りという意味合いが強いですし、社内チャレンジというのも大きな狙いです。

  • 大塚

    近年の中尾製作所にとっては、オリジナルのB to C商品の第一号ですからね。この商品が誕生したことで営業部も従来とは異なる販路開拓など、新たなミッションが生まれました。

  • 中尾

    日本の製造業で当社のようにOEMを軸にしていても、やはりオリジナル商品を持ちたいと考える企業は少なくないと思います。でも、これがなかなか難しいわけです。投資もしなければいけないのに、売れる確約はありませんからね。それでも私はブランドをつくりたいという野望があるんですよ。今回のプロジェクトはその第一歩です。

  • 西井

    開発部も今回の取り組みは新鮮で、部署内外でよく相談もしたし話題になりました。社内の活気づくりという点でも意味があったと思います。

  • 中尾

    私は音楽バンドを組んでいた経験があります。やっぱりコピーバンドばかりじゃ面白くないんですよ。手間をかけて悩んでつくったオリジナルの曲に合わせて、お客さんが盛り上がると物凄く気持ちが良いんですよ。オリジナルで音楽を続けたからレコードやCDを出す機会にも恵まれ、音楽フェスで5000人の前で演奏もできました。そういうのと製造業も同じだと思うんです。もちろん、今のままオリジナルをつくらなくてもOEMで会社は利益を上げています。でも、それだけじゃ私は嫌なんですよね。私のわがままかもしれませんけどね。

  • 西井

    私は自分の子どもに「これ、中尾製作所の商品だよ」「私が設計したんだよ」って言えたら嬉しいと思うんです。それに、オリジナル製品で中尾製作所の知名度が上がれば、他の色んな商品も手に取ってもらえるようになるでしょう。

  • 大塚

    既存の企業のお客様にも「中尾製作所さん、こんな面白い発想の商品をつくったの?」という反応を持ってもらえると、営業では大きなプラスとなります。お客様の想像を超える驚きを与えられる中尾製作所でありたいと思いますから、自社ブランドづくりは我々社員にとっても良い成長の機会になるでしょう。

  • 中尾

    社内でも良い化学反応が数多く生まれるだろうし、これからも挑戦していきたいですね。経理から止められるまではね(笑)。